2025年1月21日 (火) 10:33
死神みたいな才能
※閲覧注意=生死に関するセンシティブな内容 阪大の校内を歩きながら考えていたことがある。 図書館に漫画を置くのはダメなのに、 手塚作品が例外なのは、なぜだろう。 「奇子」は、レディコミも顔負けのドロドロ漫画だし、 「ばるほら」は、異常性欲者が、アル中ホームレスの女を、お持ち帰りしちゃうし… R指定したくなるような作品が普通にある。 にも関わらず、手塚作品というだけで、 学校の図書館に置かれる不思議。 いずれにせよ、手塚作品は面白いと思う。 子供向けの漫画でも、哲学的な作品が多いから、読み応えがある。 ブラックジャックは、小学生の時に、 全巻コンプリートする勢いで読んだな。 BJとキリコが対決する話が大好きでね。 BJは、金次第で命を救う。 キリコは、金次第で安らかな死を与える。 …似たようなものさ。 キリコは、戦地で働く軍医だった。 怪我をした兵士は、キリコに治してくれとすがる。 しかし、戦地では、物資が足りず、満足な医療を提供することができない。 手足をもがれても、内臓が押しつぶされても、死にきれず、苦しむだけの兵士たち。 キリコが、安楽死を勧めると、 兵士は「ありがとう」と言いながら、安らかに息を引き取る。 「俺だって医者の端くれさ。救える命は救いたい。」 私には、キリコの気持ちがよくわかる。 介護・医療従事者として、たくさんの患者を看取ってきたからだ。 特に、若くして、がんになった人は、 苦しみ抜いて死ぬケースが多い。 ※ここでいう「若い」とは、75歳未満の前期高齢者を意味する。 前に働いてた施設に、アル中で、末期の肝臓がんだった70代の女性がいてさ。 女性は、酒が辞められず、家庭崩壊して、 孫にも会えない状態だ。 そんな彼女には、苦しい抗がん剤治療に耐えてまで、命にすがりつく理由はない。 がん宣告されても、一切の治療を拒否していた。 うちの実家も、親父のアル中で、家庭崩壊してるから、アル中患者が苦しむのは、自業自得だと思ってた。 親父なんて、苦しみ抜いて死ねばいい。 そして、酒への執着に取り憑かれながら、 地獄の業火で焼かれればいい。 でも、苦しんでいる人を目の前にすると、 そんなことも言ってられなくてね。 気づいたら「殺してくれ」と訴える女性の背中をさすってた。 がんが苦しいのは、体が死ぬ段階まで、衰えていないからだ。 身体中が、がん細胞に侵されているのに、 体は、変えられぬ運命に、必死で抗おうとする。 その抵抗が「痛み」として現れるから痛い。 がん患者の痛みは凄まじく、 強い薬物を投与しても、効かないことが普通にある。 一方で、老衰は、眠るように旅立つ人が多い。 生物は、常に生きることを選択しようとする性質があるが、有性生殖の生物は、 死ななければならない運命も背負ってる。 有性生殖の生物は、年を重ねることで、遺伝子エラーが蓄積される。 エラーのある個体が子孫を残すと、遺伝子エラーを持つ個体が増えるから、 人間以外のほとんどの生物は、 生殖機能の喪失=寿命であることが多い。 まるで、個体をより良い状態に保つために、 アポトーシスを選択する細胞のようだ。 全ての生物は、遺伝子エラーが蓄積されると死んでいく。 ※アポトーシス=プログラムされた細胞死。 異常な細胞を残さないために備わった体のシステムの一つ。 ちなみに、がん細胞は、死ぬことを忘れた細胞だ。 死なない細胞に殺されるなんて、皮肉な話である。 死に際を悟った個体は、緩やかに死に向かう。 死臭を感じたら、その人の命は、1-2週間。 嗅覚の鋭い人が、1年も働けば、 死臭を嗅ぎ分けられるようになる。 まるで、死神みたいな才能だな。 がん患者も、死ぬ1週間前は、楽になるケースが多い。 死期が近づくと、呼吸が不規則になり、 脳や血液が酸欠状態になる。 この状態は、医療麻酔の状態に近く、 それまで、強い痛みを感じていた人も、 穏やかな表情で、眠り続けている。 人間は、数字だけを見て、正常に戻そうと、 酸素を吸入させたりするが、 これは、麻酔から目を覚まさせようとするようなものだ。 寿命は伸びるのかもしれないが、 いたずらに、苦しみを与えることになる。 生きてる人間と、死にゆく人間の生理は、 全く異なるものであり、 正常値とされる数字も異なる。 私は、いたずらに生きながらえようとさせる医者に疑問を感じている。 長く生きることだけが正義なのだろうか? もしも、苦しみをマネジメントするスキルを身につけられたら、 法律遵守のキリコになれるのではなかろうか? 私が人の死を予想できるようになったとしても、 人間の最期は変わらない。 どんなに健康な人間も、明日、事故に遭って、急死するかもしれない。 いつ死んでもいいように、やるべきことは、 生きてるうちにやらないとな。 たまーに、定年したら、海外旅行に行きたいとか言ってる人がいるけど… 高齢になると、体力が落ちて、 今ほど楽しめなくなってるかもしれない。 目の前の仕事は、やりたいことを一生できなくなるリスクを負ってまで、片付けなければならない仕事なのかい? どんな日も、今日が一番若い日。 体が動くうちに、やりたいことをやるのがオススメだぜ。